杉本弁護士のコラム

2016.12.01更新

1 原則である法定労働時間とその例外的な場合
 法律上許されている最長の労働時間(これを「法定労働時間」といいます)は、労働基準法32条によって週40時間、1日8時間と定められています。これが労働時間に関する原則となります。
 

 しかし、社会における様々な働き方を考慮して、以上の原則に対する例外が労働基準法にて定められています。フレックスタイム制や変形労働時間制という言葉をご存知の方も多いかと思いますが、これらの制度が例外に当たることとなります。
 

 これらの例外的な制度は大きく分けると、①法定労働時間を「超えて」働くことを認めるもの(時間外労働、休日労働)、②週40時間、1日8時間という法定労働時間について、1か月平均して週40時間を超えなければよいというように、法定労働時間の「数え方」を柔軟に認めるもの(変形労働制、フレックスタイム制)、③現実に労働した時間と関係なく、労働時間を算定することを認めるもの(みなし労働時間制)の3つに分けることができます。

 

2 働いたと「みなす」
 たとえば、実際には3時間しか働いていなかったとしても、就業規則で定めることにより「5時間働いた」とするのがみなし労働時間制です。つまり、労働時間について、現実に働いた時間と関係なく、あらかじめ定めた時間とみなすというのがこの制度の本質になります。

 みなし労働時間制には、ⅰ会社のオフィスなどの事業場所以外で働く場合に適用される自事業場外労働のみなし制、ⅱ一定の業務を行う人について適用される裁量労働制の2種類があります(なお、裁量労働制は、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります)。

 
3 みなし労働時間制の問題点
 みなし労働時間制で問題となる場合の一つに、本来はみなし労働時間制を採用できないにも関わらず、会社が一方的にみなし労働時間制を採用している場合があります。

 私の感覚ですが、裁量労働制の場合に、このような要件を満たさない「違法な」みなし労働時間制を採用していることが多いように思われます。
 

 また、事業外労働のみなし制については、業務の内容から、会社がさだめたみなし労働時間で業務が終了しないような場合には、当該業務を行うために必要な時間働いたものとするという規定があります(労働基準法38条の2第1項ただし書き)。

 つまり、本来なら通常その業務を終えるのに5時間必要であるのに、3時間働いたとみなすとする就業規則があったとしても、その規定は無効となり、この場合には通常通り5時間働いたと考えることができるということになります。
 

 さらに、基本的な点ですが、みなし労働時間制であっても、残業代に関する規定は適用されます。そのため、そもそもみなし労働時間が1日10時間とされている場合、8時間を超える2時間分については、割増賃金を支払う必要があります。

 

4 まとめ
 みなし労働時間制であると、残業代は支払われないと一般的には言われています。それはそれで真実ですが、そもそも適法な要件を満たしていないなど、違法なみなし労働時間制である場合も現実には存在します。

 一方で、どのような場合に違法なみなし労働時間制かどうかはかなり個別具体的な事情によって決まってくる面もあります。

 疑問に思われた場合には、一度専門家に相談いただくのが良いと考えられます。

 

投稿者: 弁護士 杉本 隼与

2016.08.29更新

1 ブラック企業ならぬブラックバイトという言葉が盛んに言われるようになりました。

 ブラックバイトとは、確立した定義があるわけではないと思いますが、長時間労働をバイトである学生等に強いるなど、労働基準法に反する行為を行うことによって、当該学生等が学業などに支障をきたしてしまうようなバイト先を意味します。

 このようなバイト先は、同じく労働基準法違反の行為を行っているブラック企業同様、バイトとして働いている学生等の本来の生活を脅かすものであり、適切な処遇を受けるべきであるといえます。

 ブラックバイトで多い問題の一つに、仕事上でミスをした場合、バイトが損害賠償の請求を受けるということがあります。

 例えば、コンビニでバイトしていた場合、発注にミスがあり予定より過大な発注をしてしまったとき、当該余分に発注した分の金額についてミスをした労働者に請求するような場合が考えられます。

 このような場合、ミスをした労働者は、損害賠償として稼働先に金銭を払わなければならないのでしょうか。

 


 2 一般的な原則として、自分のミス又は故意によって他人に損害を与えた場合、損害を与えた加害者は、損害賠償の責任を負います。

 これは常識と一致する結論といえるでしょう。

 法律的には、損害を与えた加害者と損害を受けた被害者の間に(労働契約などの)契約関係があり、その損害の発生が契約関係に基づく場合は、債務不履行(民法415条)責任を負い、契約関係がない場合は不法行為(民法709条)責任を負うことになります。

 どちらも効果としては、損害賠償を支払うということになります。

 この点は、上記のような仕事上のミスが原因で損害が生じた場合でも同様です。


 従って、上記の場合、労働者は損害賠償責任を負うということになりそうです。

 


3 しかしながら、上記の一般的な原則は信義則(民法1条2項)によって修正されています。これは、以下の理由に基づきます。
 

 会社のような使用者は、労働者の労働によって利益を得ています(コンビニは、バイトがペットボトルの飲料をレジで売ってくれることによって利益を得ます)。

 そして、労働者は、基本的に使用者の指揮監督に従って労働を行っています(バイトは店長の言われたとおりに働いているものです)。

 そうであるなら、仕事上のミスによって生じた損害についても、基本的には利益を得ている会社が負担すべきであるという風に考えることができます(これを難しい言葉で報償責任の原則といいます)。

 誤解を恐れずに省略していえば、労働者の仕事上のミスは、利益を得ている会社が負担しろ、というのがこの原則の内容です。

 

4 判例も上記のような考え方をとっています(最高裁番所昭和51年7月8日判決)。

 現実の裁判においては、労働者が実際に会社に賠償しなければならない金額は、発生した損害額の4分の1であるとされたものもあります(例えば発生した損害が100万円の場合、25万円の範囲でのみ労働者が賠償の責任を負うことになります)。

 具体的にどうやって労働者の賠償割合を決定するかについては、①ミスが故意に基づくものかそれとも不注意(過失)に基づくものかどうか、②労働者の地位・業務内容、(労働時間などの)労働条件がどのようなものか、③使用者である会社が損害の発生についてどの程度関与しているのか(たとえば、損害の発生が使用者の指示に基づく場合、労働者に責任がないと考えられやすい)といった事情によって判断されることになります。

 

5 仕事上でミスをしたら自分の責任であるとして反省したうえ、発生した損害を賠償すると考えるのが常識的であるとはいえます。

 しかし、法律上、必ずしも労働者がすべての損害を賠償しなければならないというわけではありません。

 むしろ、労働者の責任に一定の制限があることは確立した判例であるといえます。

 ミスに対する反省と損害の賠償については分けて考えてもよいのではないかと思います。

投稿者: 弁護士 杉本 隼与

2016.08.23更新

1 スマホゲームの禁止
 少し前の記事になりますが、住友理工は、従業員に対し、歩きスマホによる事故防止を目的として、就業中はおろか、休息中や出退勤時間も含めて、スマホゲーム全般を行うことを禁止すると決定しました

 

 話題となった「ポケモンGO」、そして、それに伴って改めて問題がクローズアップされた歩きスマホに関する社会問題を視野に入れての対策だといえるでしょう。

 

2 業務命令の限界
 自動車の運転中はもとより、歩行者であってもスマホを操作しながら移動するという歩きスマホが、交通事故などを引き起こす危険性があることは明白といえます。

 

 しかし、そうであるからと言って、会社が従業員に対して、(就業中は良いとしても)休息時間や出退勤時間におけるスマホゲームのプレイを一律に禁止することができるか、というと疑問の余地があります。

 

 法的には、住友理工の上記禁止命令は、会社が従業員に対して有している指揮命令権に基づいて下されていると考えられます。このような会社の指揮命令権の発動のことを業務命令と呼びます。

 

 そして、業務命令は無制限に下すことができるわけではありません。

 

 業務命令に本質的に限界があることは、裁判所も認めているところです(例えば、福岡地方裁判所小倉支部平成9年12月25日決定)。

 

 具体的に言えば、例えば、従業員の髪の色、形、容姿、服装などの人の人格や自由に関する事項について制限を加えようとする場合、その制限行為は無制限に許されるわけではなく、企業の円滑な運営に必要かつ合理的な範囲に限られることとなります。
 

 住友理工の例では、歩きスマホが危険であり、防止すべきものだからと言って、休息時間や出退勤時間(これは基本的には会社とは関係のないプライベートな時間であると考えられます)についてまでスマホゲームの禁止を命じるのは、法律的にはグレーゾーンであると考えられます。
 

 なぜなら、歩きスマホによる事故を防止することと企業の秩序維持及びその円滑な運営にどのような関係があるのか、一見明らかとはいいがたいからです。
 

3 どこまで従えばいいか
 会社(上司)からの命令や指示であれば、それをすべて受け入れて従わなければならないと考えてしまう気持ちは理解できます。職場の状況や人間関係など、さまざま原因がそうさせている場合もあると思います。

 

 しかし、法的には、上司の業務命令にすべて従わなければならないわけではありません。例えば、プライベートに関する事項など、従わなくてよい範囲は一定程度存在しています。

 

 業務命令を受けたとき、その命令に疑問を感じた場合は、身近な誰かに相談し、場合によっては弁護士などの専門家に相談してみるという方法も存在しています。

 

 従うだけがすべてではない、と心のどこかで覚えておいてほしいと思います。

投稿者: 弁護士 杉本 隼与

2016.07.12更新

 私が「災害復興まちづくり支援機構付属マンション問題研究会」所属の一員として、一部の記事の執筆を担当した以下の書籍が本日(7月12日)発売されました。

 

 専門仕業と考える弁護士のためのマンション災害対策Q&A

 第一法規

 

 タイトルは「弁護士のため」とあり、内容も比較的難しい部分もあります。

 しかし、弁護士だけでなく、マンション管理士、建築士、土地家屋調査士、技術士ほか専門士業がマンションの「防災」「災害対策」についてノウハウを解説しており、実際の問題に対する具体的な対応方法が記されています。

 マンションに住んでいる方で、これからの災害対策についてどのように対応したらよいのか疑問に思っている方は、一度本書をお読みいただければ、疑問が解消されるかもしれません。

 単なる宣伝記事のようですが、私自身、東日本大震災の際には、茨城県つくば市に在住しており、すくなら駆らず被災を経験している身として、災害や被災者支援に関する活動も行っています。

 私の弁護士としての活動の一環としてご紹介しました。

 ちなみに、私の担当個所は、「耐震補強工事について」、「駐車場の損壊に基づく損害について」、「構造上の問題に基づくマンションの被災について」「(被災した)マンションの建替えに反対した住民への売渡請求について」の4か所となります。

投稿者: 弁護士 杉本 隼与

2016.06.06更新

杉本弁護士のコラムを更新していきます。

投稿者: 弁護士 杉本 隼与

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